ミントティーと三枚目の写真

エジプトの西方砂漠、バハレイヤオアシスにあるバウィーティという村。

そこは広大な砂漠の中にありながら湧き水が出るというオアシスの内のひとつ。

村には日干し煉瓦を積んで作った家々が連なっています。庭では羊や鶏を飼い、子供達は元気に裸足で遊び、村の先には大きく広がるナツメヤシの畑もあります。

1992年の僕は、太陽が昇りそして沈んでいくという日常がとても自然に感じられるこの村と、そこに暮らす人々が好きになり、しばらく暮らすように滞在していました。

ある日、村で知り合ったオランダ人の男と床屋へ行き、お茶を飲みながらのんびりと昼下がりを過ごしていました。

庭には大きなナツメヤシの木が一本あり、上から吊った太い紐を数回揺さぶると、枝に付いた実がポトポトと落ちてきて、僕たちはそれを拾って食べたりしながら写真を撮っていました。

そうして時間を過ごし外へ出ると、向かいの家のおじいさんも出てきて、「うちにもいらっしゃい」という仕草で手招きをしています。その村に居る間の僕は、招かれるまま思うままに時間を過ごしていて、村の中では「なんだか長く居る日本からやって来た男」としてちょっとした有名人だった様です(笑)

どの家もそうであるように、数枚の板を繋げて作った粗末な扉から入ると、絨毯が敷いてある薄暗い部屋に招き入れられました。おじいさんは小さなコンロにヤカンを乗せて、お湯を沸かしながら話し始めましたが、それはアラビア語で僕たちには何を言っているのか分かりません。僕も簡単な英語で話したのですが伝わらず、おじいさんは少し寂しげな表情をしていました。

お互い出来ることもなかったので、なんとなく時間を過ごしている内にお湯も沸き、おじいさんは僕たちにミントティーを作ってくれました。お茶を飲みながら「これは美味しい」と身振り手振りで伝えると、おじいさんは初めて嬉しそうな笑顔を見せてくれました。

おかわりのお茶を入れている時に、僕はおじいさんの写真を一枚撮りました。

するとそれに気づいたおじいさんは、引き出しを開けて何かを取り出します。手渡されて見たそれは、二枚の写真でした。若い頃のおじいさん、そしておじいさんになりかけた頃のおじいさん。その二枚が彼の持っている写真の全てでした。

路面を照らした暑い陽は、まぶしく跳ね返えり、開け放った扉からおじいさんを照らしている。僕が撮った写真は日本へ帰国後、自分で現像プリントをしておじいさんへ送りました。

三枚目の写真として、おじいさんの引き出しの中に仕舞っておいて欲しいなと思いながら。

エジプトでも日本でも、その後何度も飲んできたミントティー。今でも飲む度にその時のことを思い出します。