菅原宏的写真術 その3

その2からの続きです。

その1からの続きです。当時は今ほど情報がなく、相模原育ちの僕にはツテもコネもありません。加えて映画の学校に通う気もありませんでした。さて、映画を撮る人に成ると決めたはいいが、どうしたら成れるんだろう?僕にとってのその答えは、しばらくして偶然手に取...

スタジオへの行き方を教えてもらい、西麻布から飯倉片町交差点そばにあるAXISビルまで歩いて向かいました。

ホブソンズを曲がり坂を上り、テレ朝通りを越え、六本木WAVE、麻布警察署、青山ブックセンターを過ぎて、六本木交差点アマンドの角を曲がり、後藤花店、ロアビル、鳥居坂ガーデンと抜けて飯倉片町にあるAXISビルまで。それは僕にとって初めて歩いた六本木でしたが、その時の僕にはそんな景色は見えていなかったでしょう。

スタジオは一棟丸ごとデザイン系ショップが入るビルの最上階にありました。

初めて見る撮影スタジオは、天井からいくつも吊るされた大きなライトに大きな白い床。ロビーは白く塗られ、横に長い窓からは東京タワーも見えます。マネージャーに持参していた履歴書を渡し、幾つか質問された後、その場であっさりと採用され、翌日から出社することが決まりました。

これまであれこれ考えたり悩んだりしていた時間が、どれだけ無駄だったのかと、いささか拍子抜けをしましたが、この日を境に僕の日常は激変しました。

スタジオでの最初の一週間は研修期間で、挨拶の仕方や礼儀、ホリゾント(白い床)の扱い方、照明機材の使い方、基本的なライティング、カメラの使い方、その他たくさんのことを学びます。その一週間を経た後に、一番大きなスタジオへ3人目のアシスタントとして入ることとなります。

働き始めると、初めて見るもの知ること触るものばかりで興味深く新鮮でした。

廊下の掃除をしながら扉の隙間から見えた撮影スタジオでは、絶えることのないフラッシュの光と大きな音の音楽。ロビーでは、スタイリストが服の貸し出しの電話を掛け、テレビの中で観た俳優やミュージシャン、モデルがコーヒーを飲んだり話しをしています。

なんて華やかな世界なんだろう!
タバコを買いに行くよう頼まれる事さえ、楽しく感じるほどの舞い上がり方です。

いま僕は夢に触れているんだ!
もう僕がいるのは「喫茶プードル」じゃないんだ!

研修も5日目のこと。

3日後には実戦投入でスタジオ入りです。毎日色々と教わり少しずつ慣れてはきていたのですが、同時に大きな疑問が湧いていました。そこでこの日、思い切って先輩に訊いてみることにしたのです。

「あのー、写真のことはいいのですが、いつムービーのことは教われるのですか?」

それまで毎日教わるのはストロボの使い方やその応用、そして写真用カメラのことばかりで、ムービー機材には一切触れていなかったのです。すると彼は、僕の顔をしげしげと見て、こう言いました。

「ここは写真スタジオなんだからさ、ムービーの撮影は無いよ」
「ん???」

そう、僕が入ったのはスタジオはスタジオでも、ムービー撮影のスタジオではなく、写真撮影の為のスタジオだったのでした。

「あちゃー。。。間違えた!!」

そんな経緯で当時の僕は、何も知らずにひょんなことから写真スタジオで働き始めたのでした。物事トントン拍子に進んでも、神様はその先にしっかりと落とし穴を作るのですね。

。。。というか、冗談みたいな展開でした。

しかし間違えたとは言っても、辞めることは全く考えませんでした。とりあえず方向は合っているのだから、無いよりマシ。それがアシスタント研修5日目の帰り道に考えていたことです。こうして朝から晩までスタジオで仕事をしていた1年半。いつしかムービーで仕事をしたかったことも忘れ、僕はプロの現場で写真にのめり込んでいきました。

そんなスタジオアシスタントの日々も、今や遥か昔のこと。

それから幸運も落胆も、頂点もどん底も経験しました。それでも諦めずに続け、写真家としての初仕事を得たのは、西麻布から六本木AXISビルまで歩いた日から数えて、なんと8年後になります。

いま考えると、それでもここまでたどり着けたのはラッキーだったと言えるのでしょう。

何故なら同時期にアシスタントをしていた十数人の中で、プロのフォトグラファーになれたのは、知る限り僕を含め3人です。そしてこの頃に願っていたムービー撮影が出来るようになったのは、それからさらに7年後の話しとなります。

そんなストーリーもいつか綴っていければと思います。

次回からは、本題の写真について書いていきます。
お楽しみに。

その3からの続きです。今回は、「写真を撮るのに必要なのは」です。前回までは、僕の撮影スタジオ入社までを綴りました。四半世紀という長いスパンで見ると、忘れてしまっていることが多いのですが、それでも残っている記憶は自分のことながらも、かつて観た映画の...